トンボにおいてオス・メスが連結したタンデム飛翔がよく観察されるが、交尾を終えた後も仲良くつがいで行動しているのは、ほのぼのとした姿ではなく、交尾を済ませたメスを自由に解放させられない(他のオスに奪われないようにガードする)という交尾後のオスによる極めて重要な繁殖戦略の一環である。連結したまま産卵にまでいたる種群もあり、より確実な父性を獲得するために進化した行動であろう。さらに興味深いことに、トンボ類では稀に3個体が連結する姿や、極めて稀な例ではあるが4個体の連結も知られている。このような場合、連結の一番後方がメスで、その前はオスであるのがほとんどである。交尾を済ませた相手のメスをガードしてタンデム状態となったペアに対して、強引にペアごと捕まえて新たな交尾を仕掛けようとしたものであると考えられる。メスが少なく、オス同士の競争が激しいような状況下でこのような行動が誘発されたのだろう。興味は尽きないが、よくわかっていないのが現状である。
『昆虫たちの不思議な性の世界』より